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2007年1月13日 (土)

今なぜ「海洋基本法」なのだろう?(その5)

海洋政策を各省庁はこれまでどのように分担してきたのだろう?……国土交通省と農水省等他省庁の所管行政(既得権益の保護)について

(1)沿海域管理法(海洋管理基本法案を含む)に農林省(水産庁)が反対した理由

 タイトルその4で紹介した、資料(1972)に示された建設省が策定した「沿海域管理法」(資料には要綱のみ記載、成案は同年12月に関係省庁に提示)と「海洋管理基本法」(案・構想)は、結局、他省庁のなかでも農林省(現在の農林水産省)の所管部局であった水産庁や運輸省、通産省の反対にあって国会(昭和48年通常国会)に上程されることなく、現代まで構想資料として伝えられるにとどまりました。

 当時の建設省が法案の省庁折衝を始めたときの反応がよく表れている水産業界紙「水産経済新聞」1973年(昭和48年)2月2日(要確認:私の切り抜きファイル帖に日付記載なく記事内容から〝推定〟の記載です。あとで確認します。)の記事があるので紹介しておきます。

漁業権の没収可能/水産庁、全面撤回を要求(主タイトルとサブタイトル、以下前書き)

 建設省は今国会に「沿岸海域の公共的管理に関する法律」を提出する方針を固め現在、水産庁、運輸省など関係省庁との調整作業を始めているが、この法律は沿岸海域が国土を構成する重要な公共用物であるとする基本的な考え方から出発し、同省がこれを所管、管理することを目的としているだけに漁業会に対する影響は非常に大きい。これに対し、水産庁は同法律は沿岸漁業者の既得漁業権を侵害するおそれがあり、問題にならないとして全面撤回させる方針である。日本沿岸沖合い海域の管理を規定した法案は、昨年末、運輸省が海上交通法案を、水産庁が海洋資源開発促進法を提出しており、そのほか通産の鉱物資源開発法案、環境庁の自然保護法などが近くでそろうものとみられ、沿岸海域をめぐる関係省庁間の〝制海権争奪〟がますますエスカレートしそうである。

海域利用、占用許可料も徴収(中見出し、以下記事本文)

 同法案によると、沿岸海域の管轄権を建設省が持ち、公共福祉に寄与するための管理が他のなによりも優先することになり、漁業界にとってはたとえば既存の漁業法に基づく漁業権が、この法律に基づき知事からの海域利用の占用許可となり、しかも知事は専用料を徴収できることにしている。

 また沿岸海域の使用の調整の項では、既存の沿岸漁場に公共的な管理が必要となった場合公共的工事の新築などは漁業者の同意がなくても従来より公共性が著しく大きい場合はこれを許可できる権限を与えている。

 したがって既存権益(漁業権など)といえども公共的管理の名のもとにこれを排除できるわけだ。これは国の漁業と建設土木業との産業比重にかかるところが大きいうえその判断の主体が建設省となれば調整の行く方は見当がつく。

 水産庁は28日〔おそらく昭和48年1月―MANA〕に始めて建設省から同法案の説明を聞いたが、単に沿岸海域の所管争いではなく、反対意向を強く打ち出す考えである。

 同法案による漁業への関連の大きい問題点は次の通り。

 沿岸海域は国土を構成する重要な公共用物であり、したがって建設省が公共的見地から所管、管理する。

 沿岸海域とは港湾、漁港区域を除く全領海水域をいう。

 沿岸海域の管理者は当該県知事か、知事から指名による市町村長をいう。

 知事による海域利用の許可権限=◇海域利用の占用許可。これには漁業権も含まれており、占用料や産出物採取料を徴収できることになっている。◇木石採取許可◇工作物設置許可◇管理上、公共的利用に支障をおよぼすおそれのある行為の禁止。

 沿岸海域の使用の調整=◇前④の許可申請があった場合、漁業権者に知事から通知する。◇漁業者は損害予想額をそえて知事に意見をのべることができる。◇知事は漁業者の同意がなくても次のときは許可ができる。

イ)許可による事業が従来より公益性が著しく大きい場合。

ロ)知事が損害防止施設を設立する場合。

 ◇損害に対する補償は許可者(知事)が支払う。補償額は当事者どうしが話し合って定めるが、これがまとまらないときは知事が収用委員会の意見をきいて裁定する。◇裁定に不満な漁業者は訴えを起こすことができる。

 沿岸海域整備事業(公共的利用およびこれの環境保全のための海岸工事、防波堤、造船、しゅんせつなど)=知事に実施義務を課し、知事以外もこれをできることにしているが、費用の原因者および受益者負担義務を課しており、強制徴収できることにしている。

 農林大臣が漁港区域の指定または変更をしようとするときは沿岸海域管理者に協議しなければならないものとする。

(2)関係省庁のコメントにみる省庁間の意見相違

 以下も(1)と同じ記事からの引用です。

ぜひ必要な法案 建設省

建設省水政課談 国土と一体として海洋を開発利用していくことが70年代の国土建設の重要課題であり、海洋の計画的総合利用のための法律は必要だ。現在各省庁に意見を求めているところであり、すでに運輸省から提出されている。通産も今日(2日)〔おそらく昭和48年2月2日―MANA〕あたり来る予定だ。水産庁からはまだきていない。

管理海域しぼれ 運輸省

運輸省大臣官房海洋管理官談 建設省の法案には非常に多くの問題がある。最も基本的な問題としては、海域の管理対象を領海全域にしている点だ。確かに海域の利用を現在のまま放っておくことにも問題があるが、といって建設省で領海全域を管理するというのは飛躍である。せめて重要海域を対象とすべきだ。

漁業軽視の悪法 全漁連

 全漁連漁政課長談 正式には建設省から法案の内容はきいていないが、とにかく漁業を軽視している点は非常な問題だ。というよりも検討対象にもならぬような内容で、「ハシにも棒にもひっかからぬ法案」といえよう。まだ、省庁間の話し合いの段階なので、水産庁に全面撤回してもらうようがんばってもらいたい。

全面的に反対だ 水産庁

 水産庁総務課談 もっか、水産庁としての意見をまとめているところだが、基本的にはこのような法案は提出する必要性はぜんぜんないと考える。従って全面撤回させるよう強くはたらきかける方針だ。

鉱業権の侵害へ 通産省

 通産省海洋開発室談 まだ建設省から法案に関する説明を受けていないので、くわしいことはいえないが、われわれの方には鉱業権というものがあり、これを侵害するような法案であれば反対せざるをえない。海の利用というものをもっと多角的に考え、法案を提出すべきだ。

 あんまり論評せずとも、当時の建設省が、公有水面埋立法の改正に合わせて提出しようとした「沿海域管理法」案における「管理」の内容には、ただ省庁間の権益以前に、日本の実定法制において海洋に存在する漁業権や鉱業権などの物権的権利を侵害する条項を含んでおり、行政法学上の自然公物(公共用物)理論を前提に、国と海域との関係を、広い意味での「官有水面」化するもくろみは、引っ込めざるを得なかったということだろうと思います。

(3)国会に成案が提出されなかった理由……金丸新建設大臣の答弁より

 ちょうど、その年の国会(第71国会)参議院建設委員会で、公有水面埋立法改正を審議する建設委員会で、公明党の二宮文造委員(参議院議員・現在死去)の「せっかく成案を得た……海域管理法が(今通常国会に)提出されなかった。……いつ提出されるおつもりなのか……伺いたい」という質問に答えて、当時の建設大臣であった金丸新・国務大臣は次のように各省庁間の調整が不調に終わったことを述べています。

「海域管理法といういま御指摘の法案の案につきましては、河川局でこの問題をいろいろ取りまとめましてある程度の成案は得たということであります。なお海洋審議会等にこの問題をかけております。問題は非常に内容が広範でありまして、これをまとめるということは建設省だけでまとめるわけにいかない、各省庁にまたがるというような関係もありまして、今回国会に提出することができなかったと、こういうようないきさつでございますが、できるだけ早い機会に各省庁と連絡のもとに成案を得まして、また審議会の答申の案も得まして、御指摘のように一日も早くこの法案を提出するような方向に持っていきたいと、こう考えておる次第でございます。」(第71国会参議院建設委員会、昭和48年8月30日開催、同議事録より)

(4)海洋基本法制定の背後には「沿海域管理法」の思想が浸透しつつあるのではないか?

 1月7日産経新聞朝刊には、「海洋基本法案、民主も賛成、海洋政策を総合管理へ」 がのり、「文芸春秋編日本の論点PLUS」1月11日付「海洋基本法案」においても次期通常国会での法案通過は当然であるかのような書き方です。確かにそのような動きになるかもしれませんが、国益を前提に考えるだけではなく、海洋を国が管理するために総合管理政策をとる以上は、海洋における沿岸海域に存する漁業権や鉱業権という実定法上の財産権の保護ばかりではなく、沿岸域の地域社会(「漁業・漁村」地域や漁協や沿岸漁業者集団など)の地先海面を長い歴史をかけて利用管理してきた慣習=地先権の侵害を起こすことのないような管理内容の限定条項が確認をされるべきであろうと思います。

 このような考えが杞憂に終わることを願うばかりですが、国益を守ろうという既定事実化した海洋管理思想の実態的な影響力を軽視することはできないような気がします。

 最後に「今なぜ海洋基本法なのだろう?」(その6)として、「海や川や水辺の管理と地域住民の権利」について簡単に思うところを述べて、少々しつこい連載ブログをまとめたいと思います。

 「今なぜ海洋基本法なのだろう」その6「海や川や水辺の管理と地域住民の権利」に続く

By MANA(なかじまみつる)(C)

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