今なぜ「海洋基本法」なのだろう?(その3)
幻の「海洋開発基本法」構想について
(1)1970年代初頭にあった「海洋開発基本法」制定の構想
海洋基本法制定の動きは、国土交通省主導による、国土の総合開発計画(全国総合開発計画)の一環として、これまで、手が付けられてこなかった「海洋」分野について第5次全総(21世紀の国土のグランドデザイン―地域の自立の促進と美しい国土の創造―)のなかで制定を位置づけられ構想がねられてきました。海洋の管理に関する基本法と関連法規の制定については、今回が初めてというわけではありません。そうとうに古くから、海を自然公物(つまり国に支配管轄権限がある公共用水面:「海は国のもの」)として、明確に規定された法律上の位置づけを与える構想がありました。
その構想の一つとして具体的に、法案が作られ、海洋開発基本法と諸法制定が関係省庁間ですり合わせが行なわれたことがあります。昭和46年から47年にかけて、海洋基本法が平成10年の第5次全総閣議決定以降「21世紀のわが国の海洋のグランドデザイン」()として構想される20年以上前に、国土交通省の前身である建設省時代に「海洋開発基本法」制定を前提にした法案整備を進める動きがあったのです。
実質的には、この海洋開発基本法案とセットの形で制定を進めようとしていた「沿岸海域の公共的管理に関する法律」(案)(以下「沿岸域管理法」と略します)によって、国が「海洋」全体と「沿岸海域」とをどのように管理するかを定めることを目的として、建設省内に設けられたプロジェクトチームが練り上げた構想が核となっていました。昭和60年度を目標年次に置いた第2次全国総合開発計画(通称「新全総」:昭和44年閣議決定)の計画立案と並行して作業が進められました。
この海洋開発基本法と沿岸域管理法という二つの法律案の内容について、策定経緯と要綱について記した公開資料:海洋産業研究会発行『海洋産業研究資料』海洋開発と管理に関する建設省プロジェクトチームの報告(抜粋)(Vol.3,№4,1972.5.29)(以下「資料(1972)」と略します)がありますので紹介してみることにします。
(2)海洋開発基本法と沿岸管理法とはどんな法律か?
二つの法案の制定意図について明確にしめされた 「海洋開発と管理に関する提言について」(建設省プロジェクトチーム)と題する文章の冒頭「まえがき」が資料(1972)にのっていますので以下に引用します。
まえがき 本文は、昭和45年9月建設省内に設置された「海洋開発と管理」プロジェクトチームにより検討された報告の要旨を纏めたもので、このほど海洋開発審議会に説明されたものである。建設省においては海洋の健全な利用開発を推進するため、国土計画大臣として沿岸海域スペースの陸域の一体化した秩序ある開発と管理を行なうことが最も重要であると考えており、沿海海域を含む国土の総合的利用開発管理の観点から、新しい法制度、海洋スペース利用の推進方策等について提案を行なうものである。
一方建設省では、70年代に新しい国土建設を効率的に推進するとともに、国民生活環境の破壊と多様化する国民の欲求に対処するため、昭和45年度から建設技術開発懇談会(47年度から建設技術開発会議)を設置し、新たな観点から建設技術開発の基本的方向、官民共同の技術開発体制のあり方等について検討しているが、海洋開発については「海洋開発部会」を設け、プロジェクトチームの提案の趣旨を受けて当面の海洋開発の基本的方向とその推進方策について検討している。
また、有限な国土資源の保全と活用、安全快適な生活環境の確保を基本的課題として、昭和60年を目標年次とする国土利用の基本構想および実現のための具体的施策等に関する「国土建設長期構想」を現在改訂作業中であるが、沿岸海域スペースの利用開発及び保全についても、本資料で述べた基本的方向にそって具体的な提案を行なう予定である。
つまり、次の「1.海洋開発と管理の推進の必要性」で、「海洋開発は、その性質上高度の科学技術の結集と膨大な資金を必要とし、かつリスクが大きいため、官民一体となって、ナショナルプロジェクトとして推進する必要がある」とともに、「これまでは無限と考えられてきた海洋資源および海洋スペースについてもその限界性をにんしきすべきであり」、そのうえにたって「計画的、かつ、総合的な海洋の利用開発と管理をする必要がある」という理由です。
そして、ひとたび雑然とした開発が行なわれた場合、その再開発整備は非常に困難であり、また、破壊された海洋の自然環境を復元することは不可能といえる、として「建設省は、海洋の各種の利用開発を整序づけ乱開発を防除し、かけがえのない海洋環境を保全するため、海洋を本来の自然公物として認識する海域管理法(仮称)の立案を早急に着手する必要がある」という結論をだしています。
こうした、海洋基本法制定の趣旨(「総合」「計画」をすすめる理由)を、20年後、30年後、「国土」の総合的利用と管理計画を、それこそ国をあげて、推進したあげくが現在、私たちが目の前に、その残骸にふれ、呆然として見つめる以外に手の施しようがなくなってしまったわが「国土」の現状を結果としてみてしまっているところから、いちど冷静に、開発という言葉をあえて使わなくなっているだけに過ぎない(としか私にはみえない)、変わらない法制定の趣旨、目的を見直してみる必要があるように思えるのです。
(3)「海域管理法」について―今なぜ「海洋基本法」なのだろう?(その4)につづく
決して「国益」ということばに惑わされずに、結果的に国益を減退させ続けてきた国土の開発計画の真の姿を、わたしたちが、がんばって何とか生き抜いてきたそれぞれの自分史の眼で、評価を下したいという気がしてならないのです。
次に、ここまで触れた「海域管理法」とは、どういう法律であったのか、そして、「海洋開発基本法」を提唱する提案内容を、資料(1972)から見ておくことにしましょう。
By MANA(なかじまみつる)(c)
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