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2008年12月27日 (土)

「文芸春秋」にも「里海」の記事載る

涌井史郎氏の「里川と里海の思想」

「里海」のことばが、芥川賞掲載号というので購入した月刊「文芸春秋」誌(2008年9月号)に載っていた。「人と自然をつなぐために」という、「造園家」にしてテレビなどで頻繁に発言をしている涌井史郎氏の連載記事(野村不動産の広告ページですが)の第3回が「里川と里海の思想」。

「里に暮らす人々にとってコモンズとしての川」として、「里山」を論じ、「川はまさにコモンズ(共有の地)であった」と「里川」を論じている。

続けて「海にも、人がかかわることによって、自然の恵みを最大化する知恵があった。その事例が〈サンゴ礁〉や〈干潟〉、「藻場」である。人々はこうした直接人の役に立たず、むしろ漁の邪魔にさえなる存在を逆に保護した。そこが豊饒の海を保障する大切な生物多様性の宝庫であることを経験的に知っていたからである。」沖縄の「イノー」を例にあげ、「これこそは夕餉をにぎわす」漁場となり、「漁民はこうした海の恵みを得るために、渚に近い海の手入れを怠らず、漁についても時期や大きさ、そして雌雄までも自己規制をすることを作法としてきた。ここにも人が関わってこそ得られる自然の恵みの姿がある。だから〈里海〉と呼んで差し支えない。」

今年が、国の施策に「里海」が、各省庁の持ち分の範囲とはいえ、沿岸域にかかる環境、漁業、水対策の一つのキーワードとして位置づけられた初年の年となり、涌井氏が言う「人と自然をつなぐ」視点を論じるばあいには、「里山」に加えて「里川」と「里海」が、「水」を介してひとつながりにとらえるという論調が主流を占めてくることになるのであろう。

それだけに、「里山」「里川」「里海」を連環して(この「連環」のことばもすでにそうとうにゆきわたった)とらえるときに、山にあって川と海にはないもの、海にあって山や川にはないもの、川にあって山と海にはないもの、というような、同質と異質のファクターをかぎ分ける臭覚をあわせもたないと、「思想」といえるようなものには到達できないのではないかというきもする。

来年は、「里海」から「里山」「里川」に向けての、より具体的な発言が増えていくことが必要になってくるのであろう。

(MANA:なかじまみつる)

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2008年12月 6日 (土)

田んぼにかける魚道

ふと、なつかしい風景を思い出しました

愛読しているメールマガジンの中で、官の調査機関発行にもかかわらず、とてもソフトで、しかも刺激的な記事をいつも掲載しているのが、「神奈川県水産技術センター・メールマガジン」です。数号前でしたが、アユカケ取材がきっかけで情報の交換をしてきた勝呂さんの「田んぼにかける魚道」の記事と、写真がとても印象に残ったので、転載許可を得て、里海ブログで紹介することにしました。(©神奈川県水産技術センターメールマガジン・
神奈川内水試・勝呂尚之さん)

○田んぼにかける魚道
 
Sugurotanbogyodo01_2 子供の頃、近所の田んぼの水路に、突如、シャベルカーが出現し、工事が行われたことがありました。何ができたのかな?と、様子を見に行くと、水路はコンクリートのドブと化し、魚やエビ、オタマジャクシなどでにぎわっていたはずの流れには、何もいなくなっています。とてもがっかりしてショックを受け、その近くを通る時には、無意識に水路から眼を背けるようになりました。

 最近は環境を重視し、生物と共存する時代へと変化しています。農業用水路の工事も見直され、生き物への配慮が行われるようになりました。そのひとつに魚道の設置があります。水路は人間の維持管理を重視すると、掘り下げられ、コンクリート化されます。その結果、水路と水田には大きな段差が生じ、生物の往来を分断します。

 実は、水田とその周辺の用水路は、水温が高く栄養が豊富なので、メダカ、ドジョウ、ナマズなどが産卵場として利用し、赤ちゃんの育成場になっています。そのため、水田の減少や水路の改変によって、これらの魚類は、全国的に減少しているのです。

 内水面試験場では宇都宮大学と共同で、絶滅危惧種のホトケドジョウとギバチに適した水田魚道の研究を行っています。主に千鳥X型とカスケードM型という二つのタイプを検討し、魚類行動試験室で魚を遡上させデータを収集しています。これまでに、ホトケドジョウには千鳥X型が適していること、カスケードM型では、魚道内の水深を確保することで利用できることなどがわかりました。

 また、屋外の人工河川「生態試験池」でも、この二つのタイプを並列で設置し、ギバチの遡上状況を調査しています(写真1)。水田周辺に生息する淡水魚に適した魚道を開発し、分断された生息環境を復元することで、メダカやドジョウがたくさん泳ぐ用水路を復活させることができればと考えています。

写真1:内水面試験場・生態試験池に設置された水田魚道(左;千鳥X型,右;カスケードM型)

「神奈川県水産技術センターメールマガジン・VOL.272 2008-11-14」より転載許可を得て載せています。本ブログからの再転載は不許可です。連絡をいただくか、同メールマガジン発行者に連絡してください。)

僕たちの子どもの頃には、田んぼのアゼの草ツミや、水路での水棲動物昆虫の採取が、遊びの常道でした。手づかみでコイやフナやドジョウを捕まえていると、「イタッ」とさされて真っ赤にはれてしまうことがよくあった。そう、ギギやアカザなどの「刺す」魚が、その正体だったが、いまや、それらの小魚たちは、希少魚類にされて、めったにお目にかかれない貴重なサカナになってしまった。

ここに報告されている「水田魚道」は、手作り感あふれて、小型木製水車のような懐かしい田園の風景を醸している。調査研究の正式の報告書を読まずして、直感で、このような試みをする感性にぐっと引き込まれてしまった。

転載許可願いのメールの返事に

「ちょっと寒くなってきたので、今は遡上していませんが、春先にはたくさんギバチが稚魚が遡上するではないかと期待しています。また、室内での試験も来週からはじめます。メルマガで紹介した魚道のほか、ハーフコーン型魚道もギバチに試してみます。また、近くにお出かけのときにでもお立ち寄り下さい。」(神奈川内水試・勝呂尚之さん)

とあった。早春、ギバチのこどもたちに会いに出かけてみることにしよう。 by MANA・なかじまみつる

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