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2009年5月 2日 (土)

竹峰誠一郎・中原聖乃著『マーシャル諸島ハンドブック』

単なる観光案内の本には終わらない南海の「小さな島々」の自立を応援する内容がたくさん詰まっています。

 竹峰先生と知り合ってしばらくして1冊の本が贈られてきました。Takeminemarshalislandbook_2ハンドブックとタイトルにあるように、観光で、島々を訪れる人々向けの知識・情報が詰目込んだ編集がされている。日本とのつながりや、「フレンドリーな人々、イルカやトビウオ、パンノキ・タコノキ――お金では買えない世界が、温かく迎えてくれる」という。南の国の海の島が大好きな日本人には、ああ、こんな島で暮らせたらなあと、夢気分を味あわせてくれるのであろう。

 しかし、サブタイトルの「小さな島国の文化・歴史・政治」と書かれてある。1954年3月アメリカ合衆国は、この島々の環礁地帯で水爆実験が行なわれた。日本では、ビキニ環礁水爆実験として知られ、マグロ漁船第五福竜丸が、水域を操業中被爆、乗組員の被害はもちろん、放射能に汚染されたマグロへの風評被害を含め大きな問題となり、当時小学生であったMANAの世代にとっても、その後続く影響によっても、戦後の強烈な記憶として残っている。

本書の第4章は「アメリカの安全保障の影」として、著者の一人竹中誠一郎の調査研究成果を存分に発揮して、日本人としてほとんど記憶から忘れかけようとしている水爆実験とマーシャル諸島にくらす人々の被害やお粗末な補償の実態や、大国の論理に押しつぶされてきた歴史の実像を、わかりやすい、わかものの感性で淡々と記していく。

海と人とのかかわりを、「里海」論として再構成していく試みをしている、MANAの心に、ぐさりと現代にまさに移行する途中に起きた事実としてぐさりと突きささる。

アリの目になった竹峰さんの視点

竹峰さんの「あとがき」を引用しておこう。

「アリの目」で世界を見つめる:「世界には63億人の人がいますがもしもそれを100人の村に縮めるとどうなるでしょう」――。絵本『世界がもし100人の村だったら』(マガジンハウス)は、「いままでと違う世界の現実が見える」などの反響を呼びベストセラーになった。類書も次々出版され、……中略……「世界の多様性と格差が体感できる」と好評を博している。

「100人の村」を全否定するつもりはない。しかし、世界を100人の村に縮めると、マーシャル諸島のような小さな国がかかえている現実は、ますます切り捨てられ見えなくなってしまうことを、私は声を大にして言いたい。世界の多様性や現実を理解するには、ものごとを上から大きくとらえる鳥瞰的な見方だけではなく、もう一つ「虫の目」をもった、いわばアリが地をはうように、下から丹念に、小さなものから世界を見つめる視座が必要なのだ。本書は「アリの目」で世界を見つめた本である。

小さな島マーシャル諸島は一見、世界の大勢に影響を与えない、隔絶された辺境な地に見える。しかし、その小さな島には実は世界大の大きな問題が横たわっている……中略……。辺境とされた地に着目することは、「国史を、地域史を、ひいては世界史を違った視座から再訪するたびの出発点」(テッサモーリス『辺境から眺める―アイヌが経験する近代』みすず書房)となる。

……中略……そもそもマーシャル諸島をはじめとする太平洋のミクロネシア地域は、日本のお隣さまでもある。昨今「東アジア共同体」や北東アジアをめぐる議論が盛んになりつつある。近隣地域のアジアに目を向けようとする動きは心から歓迎したい。しかし同時に近隣地域の眼差しが、北東アジアや東南アジアにほぼ限定されることに違和感を覚える。日本から見て西半分だけが近隣地域なのだろうか。日本から東に目を向けると、そこに太平洋の海世界が広がっている。そこはかつて日本が南洋群島と呼び支配していた地域である。本書がもう一つの近隣地域、ミクロネシアの島々に想像力の射程をのばす一里塚になればうれしい限りである。

日本という沿岸域の「海世界」に「地域」に焦点を当てる眼差しによって、一般的に発展から取り残されたと見られている「漁村」地域は、はたして現代においてどのような役割を演じることができるのか、期待を込めて再評価の作業にとりかかろうと思う。

2007年11月、凱風社(03-3815-7633:HP:http://www.gaifu.co.jp)刊。A5判232p。定価2200円+税。

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